5.林業・バイオマスエネルギーの収益性と評価

  さて、今までは林業生産事業、バイオマスエネルギー事業、各々がどうあるべきかを論じてきましたが、両事業一貫 でのコストの安いこと、収益性を検証します。バイオマスエネルギー用に林業生産事業が経営的に成立する事、 即ち林業生産事業側も利益が確保でき、エネルギー事業側もバイオマスが対石油十分安価で、エネルギー設備投資 が10年以内に投資回収可能なことを検証します。

  • バイオマスエネルギー用のチップの材料についてのケース検討
    林業生産側では表に示す3つのケースを設定します。ここでは再生プラン目標の木材50%自給を前提にしています。
    • ケースAは現在既に実施の人工林の製材用素材の残材を利用するケースです。コストは1.8円/KWHと安いですが量が製材用途 の量に左右されます。

    • ケースBは今回提案するものですが、人工林の年間生長量から製材用に利用した以外の立木をすべてエネルギー用に活用するケースです。 コストは4円/KWHで量は製材用途の量に左右されます。

    • ケースCも今回提案するものですが、天然林の更新伐を利用するケースでコストが2.5円/KWHと安く、量は製材用途に左右されません。

バイオマスエネルギーチップ単価検討結果

  • 林業生産の収益性・・・十分収益性はあります

    林業生産事業側(供給側)としては、チップ単価のコストに20%を載せてエネルギー事業側(需要側)に売るとします。 林業生産事業として、ケースAの場合で売上840億円/Y,粗利益140億円/Y、ケースBの場合で売上3600億円/Y,粗利益600億円/Y、 ケースCの場合で売上3700億円/Y,粗利益618億円/Yが見込めます。この場合はいずれのケースも林業事業として十分経営的に成立する事 が検証できます。

  • エネルギー事業側(需要側)の収益性・・・ケースA、B、Cの投資回収年数は5−7年と短い

    エネルギー事業側(使用側)としては、従来の個別暖房給湯(石油12円/kwh)を、バイオマスチップを使う バイオマス地域熱供給設備に置換えて、投資回収できるかを検証します。
    例えば ケースCのチップ販価3円/KWHの場合でその考え方を補足しますと、地域熱供給化による省エネ効果15%と エネルギー単価差をメリットと考え、地域熱供給設備としてオーストリア並投資1億円/1000KW(50%程度の補助金を前提) と仮置き、個別の暖房給湯の場合は1180KW必要だったとする。地域熱供給設備の全負荷相当時間 を1500hr/Yと考えると、バイオマス化メリットは(1180kw*12円/kwh-1000kw*3円/kwh)*1500hr/Y=1674万円/Y となり、 単純回収年で6年(=1億円/1674万円)となります。
    ケース」Aの場合は単純回収年で5年、ケースBの4.8円/KWHの場合でも単純回収年で7年となりいずれも10年以下で回収可能です。
    従って、ケースA、ケースB、ケースC いづれも採用すべきです。
  • バイオマスエネルギー事業の全体の可能性イメージ・・・全体のチップ量では全暖房給湯エネルギーの43%をカバーできます。 但し、設備投資に7500億円*20年が必要です。

    ケースA、B、Cの合計では、バイオマスエネルギーチップ158百万m3/Yとなり、全暖房給湯エネルギーの43%(158/364)、 24*1010kwhをカバーすることになり、この分輸入石油を追い出すことができるのです。

    この段階で西欧諸国並みのバイオマスエネルギー割合ですが、更に、ポプラや、柳などの生長の早い樹種を造林する ことにより更にバイオマスエネルギー割合を上げることが可能でしょう。
    仮に暖房給湯をすべて地域熱供給設備で供給するとすれば、1.5億KWの容量の設備が必要です(24*1010/1500)。
    投資額は15兆円+補助金12兆円 (設備費低減プロジェクトを発足させ、当初50%補助金を最終的にはゼロとする場合の例)なので、 20年間計画の投資とすると投資額7500億円/Y、補助金は当初の5年間7500億円/Y、残りの5年間3750億円/Yとなります。

    以上の検討は、林業生産事業側(供給側)の全資源をエネルギー事業側(需要側)が利用することが出来たと 仮定した場合の可能性をマクロ的に述べたものです。


 

  • バイオマスエネルギー事業の具体的イメージ

     木材はバルキーであり、本来、木材産業は森林資源近くの立地が必要があり、大規模集中的でなく小規模分散型になる傾向に なります。更に距離が近いだけでなく、バイオマス供給とエネルギー需要のニーズがマッチしないと事業として成立しません。

    しかし、西欧の例を見ると(3.の表 森林成長量/伐採量と木質燃料の墺独日比較)森林成長量の60-80%を伐採し、伐採量の 50%程が木質燃料として使われているという事は、恐らく利用できる森林資源は殆どすべて利用し、木材の残材を含めすべて100%有効 利用されていると判断されます。 つまりバイオマス供給とエネルギー需要のマッチングを熱利用で可能な限り取り(多数の小規模分散型のバイオマス熱利用システムがあるはず)、 マッチングの取れないものに対しては発電設備設置(コジェネ)やペレット化など遠方輸送出来る形を取り、100%森林資源を有効活用して いると推察します。
    この状況は2.のオーストリアのバイオマス地域熱供給設備分布図を見れば頷いて頂けると思います。
    そして、このことは日本でも同様な事ができるはずということを意味しています。

     そもそもエネルギーという極めて重要なものを遠い国からの輸入に頼ると言う考えは、安心安全の考えから本来取るべきでない 事ですが、日本では石油が水のように安かった時代をそのまま引きずり続けて暖房給湯エネルギーとして、我々の手の届く近くにある エネルギーを忘れているのです。石油の半分のコストとなる厖大な森林資源が近くにあるのです。しかも この森林資源は、利用しないと減少し崩壊するという面からもその成長分を循環利用しなければいけないのです。 身近な森林資源を利用することは喫緊の課題なのです。

    以上のことは2の4の「エネルギー自前による地域経済再生」でも西欧の例を示しましたが、林業生産の拡大、バイオマスエネルギー化は 地方分散型事業であり、計画、建設、生産プロセスをその地域で実行し、地域の雇用が増加し、マネーが地域に落ちるという地域経済活性化 が図れる点で地方にとって極めて重要です。

    ここで、ある地域の具体的なイメージングをしてみましょう(注7参照)。
    ある町の面積を3万ha、森林率80%、利用率80%として、50%の人工林からは10m3/ha、50%の自然林からは8m3/haの森林成長量 があるとすると年間18万m3の木材が取れます。この内マテリアル利用できるものが約6万m3、エネルギー利用できるものが14万m3 =7万t程となり、5000KWの発電プラントと世帯数1万2千戸を想定した熱電併給(コジェネ)システムを構築でき、地域への電気と 熱の供給が可能となります。世帯数の数がより多いなら、熱供給のウェイトを高め更に広範囲に熱供給することも可能です。

      また、バイオマスエネルギー用途拡大は林業全体のコストを下げるので 輸入製材にも対抗でき、国産製材 の拡大をも促進するでしょうし、雇用もマネーも更に拡大し、更に地域経済活性化は推進されるでしょう。
    これは都市一極集中の流れを変える起爆剤になるわけで、今までの流れを大きく変える社会構造の変換でもあります。 そしてこの地域経済活性化が各地で起こるということは日本の大きな産業の柱に成長することになります。 大きな課題もあるでしょうが、安全安心な暮らしを実現できるプロセスであり、課題を克服して推進していくべき方向だと思います。
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