4.事業展開の考え方

さて、次はこのバイオマスエネルギー需要を品質・コスト競争力のある形で作りこむ必要があります。
オーストリアは面積規模的には北海道が近く、日本の地勢に似て、山地が多い。日本の林業は 急傾斜地に森林資源 が多い、小規模林地地主が多い、人件費が高いの三重苦が改善を阻んでいると言われますが、これはオーストリアも 同じでしたが克服したのです。気候も日本の東北地方並で、暖房の仕方についても参考になります。 文化的にも技術的にも優れ、GDPが同等ということでも共通するところが多いと考えます。
  筆者は オーストリアという格好の手本があるのだからまずオーストリアを手本としてしっかり学び、それを日本の実情 に合わせてモディファイしていくことが最善の解決法と考えます。
 具体的には@林業生産事業面(供給側)、Aバイオマスエネルギー事業面(需要側) の2つに分けて考えますが、 @Aを一体にした森林産業として捉えることが重要です。双方ともに大きな投資を伴いますので、少なくとも事業の黎明期 の段階では供給側と需要側が対応している必要があるからです。

 @林業生産事業展開の考え方

  • 西欧では林業は 高性能林業機械の開発などハイテク産業であるし、基幹産業として定着していることを認識すること、

  • 林業事業者は「補助金に頼らなくても経済的に十分成立することを認識し自らが効率的経営を築く」との経営意識を持ち、  競争力ある森林事業を作り上げ、 これを国、県などの公がサポートする事が重要です。

  • 競争力を持つためには、林地集約・生産規模の拡大、高性能機械化、2交代化、林内路網整備、輸送コストダウン (大型車化と高積載率)が重要です。

  • ベース技術として、機能化森林GISが重要です。単なる森林の地図情報だけではなく、林道・作業道計画、機械設備配置  計画、最適生産作業計画、生産コスト算出などができ、オペレータガイドもできます。森林のインテリジェントな見える化です(注7、16)。

  • 林地集約により事業の効率化を計ることは、西欧に対してかなり日本は遅れていて難しい課題ですが、重要な問題です。 農地は大規模集積化を推進中ですが、林地も同様に行いその集約事業成果に対して補助金を出すなどの仕組みを検討すべきです。 機能化森林GISは林地集約でも威力を発揮します。コストシミュレーションでき山を評価でき各地主の利益予測ができることは 林地集約、共同事業に対して強力な武器となります。これは不在地主対策にもなりますが、法的な整備も必要です。 全国森林組合の重要なテーマとしての取り組みにも期待します。

  • 日本の林内路網整備はかなり遅れています。林道は国が白書でドイツ並みを目指すという方針を出していますので それに期待します。作業道は補助金を受けて作ります。
    路網密度比較

    路網密度比較(21年度森林林業白書)
    林道と作業道

    林道と作業道(21年度森林林業白書)

    バンドラー

  • 特に広葉樹は幹が曲がり分枝が多くがさばるので収穫生産直後に粉砕チップ化するか、 バンドラーでバンドル(圧縮成形)した後運搬し別の場所でチップ化する事が必要です(注7)。高性能林業機械(大規模、自動化)は国産になく、 当面輸入となりますが、森林大国日本としては自前技術を培い、輸出産業にしたい所です。急峻な林地はタワーヤーダー等の 架線系機械を適用し、比較的平坦な所では車両系機械と使い分け、路網整備とリンクさせます。

  • 補助金の見直しも重要です。補助金が経営改善意欲を喪失させているので補助金を段階的に無くすべきとの指摘もあります。 少なくとも補助金の見直しは必至で、施業単位に出しているものをある目標達成に対して出すとか、森林組合優遇をやめるなど 補助金が競争力アップに寄与するように見直すべきと思います。

  • 以上により人工林の素材生産コストは傾斜面伐採があってもオーストリアに近い4000円/m3が可能と思います。  更に重要なことは、天然林をエネルギーフォレストとして更新伐し(1ha程度の小面積皆伐)全木集材する場合は生産性  が倍になり、2100円/m3程度のコストが実現可能な事です。

  • 長期的視点で基盤整備すべきものとして、作業技術者育成、フォレスターや森林経営計画プランナー育成、 林業事業経営全般の助言・共同経営化斡旋をする組織、フォレスター学校の整備、林業活性化のための仕組み作り、 森林組合改革、以上とそのための法的な整備などがあります。


Aバイオマスエネルギー事業展開の考え方

  • バイオマスエネルギーの使い方として最も重要なのは、優先して熱利用用途に使い、電気化やガス化する用途は  2次的に考えるという考え方です。それは、熱利用の地域熱供給の場合は 効率85%程度で低コストですが、発電用では  ロスが大きく効率が良くても30%になり(注13)、KWH当りのコストは著しく高コストになります。  従って発電に加え、その排熱を利用する熱電併給にする事により熱効率を40-80%と改善できます。

  • バイオマスの熱利用にはバイオマスボイラーからの温水供給による地域熱供給がベストです。残念ながら日本は地域熱供給 が世界で最も遅れている国の一つです。地域熱供給はオイルショック後西欧で飛躍的に進展し、近年は中国で最も大規模に普及しています。 導管ネットワークの長さは、日本の736kmに対して 、オーストリア4201km、ドイツ19538kmと大きな差があります。(注14)
      日本でごく一部にある地域熱供給も化石燃料のそれであり、バイオマスの地域熱供給化を計るべきです。
      地域熱供給のためには地域の役所、病院、企業、家庭の連携・まとまりが重要です。石油を大幅に下回るコストが実現できると思い ます。安価エネルギーの実現は地域復興の鍵になります。
      比較的大きな地域熱供給では、チップボイラーから配管で温水を供給し給湯、暖房します。更に必要に応じ熱電併給としてタービンを 設置し発電することもできます。小規模な地域熱供給や家庭暖房の場合チップボイラーよりコストは上りますがペレットボイラーに なります。 またボイラーを設置しないでペレットストーブもありえます。
      日本の500KW以上のボイラーは3万台以上あるが化石燃料主体(注7)、これをバイオマスに転換する事も課題です。

      日本の木質バイオマス燃料のボイラー、ストーブの性能は熱効率70%程度、高含水率チップ使用不可、自動化不十分 (注14)など西欧に比べ性能差は歴然としています。当面は輸入で考えることになりますが、森林王国としては国産品開発が必要です。   バイオマス熱供給システム設計や高性能ボイラー・ストーブの開発は日本が本腰を入れれば輸出産業になりえます。

    地域熱供給システム
    山形県最上町の地域熱供給システム

    地域熱供給システム(安成工務店HPより)

    山形県最上町の地域熱供給システム
    (23年度森林林業白書)
  • バイオマスの地域熱供給設備のランニングコストは石油を大幅に下回り安いですが、設備が大掛かりで投資額が大きい事が難点です。 しかも現時点では設置台数も少ないこと、導管敷設等の実績が少なく設計が不慣れなこと等が理由と思われますが、地域熱供給設備の 投資例の表にあるように日本での設置例はオーストリアよりも数倍設備費が高いようです。
      また、別のレポートによりますと、日本でのバイオマスボイラーの設備費は西欧に比べて7-8倍高いと言う報告もあります(注22).
       更に、日本での設置例においては、エンジニアリング上の様々な問題、例えば過剰な設備仕様の選定とか燃料に対する無理解等があり、 結果的にコスト高の設備になっているとの指摘もあります(注23)。

    地域熱供給設備の投資例
      

      設備費過大問題は投資回収ができなくなることを意味する大問題です。
      当面は過大・不適切な仕様を無くし、設備費削減に努め、補助金活用などにより10年以下の投資回収を狙います。  欧州においても始めは50%程度の設備費補助金が普通でしたが、日本でも同レベル補助は確保できるはずです。
    地域熱供給設備の低設備費化のために、大学や研究機関などでの調査研究や、国を挙げての対応策の検討プロジェクトが必要と 思います。

    日本における
バイオマスボイラーの標準的な設備費
    日本におけるバイオマスボイラーの標準的な設備費(300KWの例)(注22)

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